僕のお気に入りの美術館のひとつです。
ピカソが少年時代、青年時代を過ごした
バルセロナの街にあるこの美術館は、
パリの同名の美術館の、
ピカソ自身のものであった豪華絢爛なコレクションとは違い、
若い頃の習作や、青の時代の薄暗い絵が中心で、
そのことが、ピカソをとても身近に感じさせてくれるのです。
厳選された中期以降の作品では、
ベラスケスの「宮廷の女官たち」を題材にした
何点もの異なるアプローチの作品が圧巻です。
昔の楽譜を、モダンの楽器で、コンサートホールで演奏するというのは、
もしかしたら、これくらいはじけたことなのかも、
と、考えさせられます。
92年に初めて訪れ、
2002年にも再度訪れました。
10年経ったバルセロナは、
少し騒然としていました。
どういうことなのかというと、
貧しい移民たちが道にあふれている、
その人たちの好奇の目をかいくぐりながら、
貧民街の細い路地の奥にある
ピカソ美術館を尋ねました。
帰りの地下鉄を降りたのぼりエスカレーターで、
前に立っていたチュニジア人だかモロッコ人が、
「あっ!!」と叫んだかと思うと
鍵のようなものをエスカレーターの降りる際のところに落とし、
拾おうとしてかがみ込んだまま、
どんどん僕の方に後ずさりしてくる。
気づいてはいなかったけど、
僕の後ろにも、同様の輩がいて、
後退する僕を後ろから、早く進めとでも言うように
身体で圧力をかけてくる。
後で知ったのですが、
これは当時はやっていた典型的なスリの手口で、
もたついていると後ろから来た奴が
財布やパスポートを持って行くらしいのです。
ところが、僕はどうしてもそういう状況になると、
過剰なまでの防衛本能が働いてしまうらしく、
前で前屈みになって後退してくる男の白いTシャツを
ぐいっと引っ張ってしまったんですね。
前屈みになって後ろに押してる状態で
後ろに引っ張られると、
人間というのはとっさに前に重心を戻そうとするもの。
それで次の瞬間、
その男は前のめりになって四つん這いになってしまったんです。
で、僕は怖くなったからだと思うんだけど、
その男の背中をがしがし踏みつけて走って逃げたのです。
何も盗られていなかったのだけれど、
後で考えると、踏みつけることはなかったかな、と、
ちょっと悪いことした気分です。
今はもうずいぶん治安も良くなっているらしいですが、
昔は、ガイドブックに載ってる
「こんな人には気をつけよう」
みたいなのには、
必ずお目にかかれたのが、
バルセロナとマドリッドでした。